ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

熱量が全てを押し流す圧巻の古典ラノベ 読書感想『ブラックロッド(古橋秀之)』

 古橋秀之作、ブラックロッドを読んだので感想を書きます。

 今年発売された愛蔵版ではなく、古い方を読みました。

 本作は第二回電撃ゲーム小説大賞【大賞】受賞。初版は1996年、まぎれもなくライトノベルの古典的名作。第一回受賞の高畑京一郎と第二回受賞の本作はかなりライトノベルのいうジャンルの形成過程に影響を与えているはず。

 表紙が雨宮慶太というのも豪華でいい。

 このころは宣伝も豪華で、ラジオドラマも作られたりしており、お金のあった時代だなあと思うばかり。ラジオドラマカルチャーってだいぶ下火になって、ラノベのラジオドラマは絶滅しましたね。オーディオブックはあれはあれでいいけどラジオドラマとは違うし、ドラマCDはほぼ特典として作られるもので本編はやってくれない。オーフェンが続編を刊行にするにあたって本編のドラマCDをつけたのは、その世代にとってラジオドラマが身近だったからでしょうけど、あれは素晴らしかった。

 

 

 オカルティズム全開の世界観とサイバーパンクSF的世界を背景とする造語と、それらにルビを振りまくった独特な文体。それらが大きな説明もなく一気に叩き込まれる冒頭から圧倒される。なんだかわからないのだがそういうものなのだろうと思わせるのは、最小限の説明箇所が的確であることと、これぞラノベという短い文章でハイスピードで進めていくスタイル、そしてド頭で膨大なルビを振った文章を見せるという視覚的な演出が全て効果的に機能してるからだろう。

 このあたりの海外SF文学やアメコミっぽい世界と、黒丸尚が発明した文体があからさまなところをみると、当時のラノベがSF者たちにとって一つの作家になる入り口として機能していたことが伺える。アメリカのSFに東洋哲学みたいなものが流入して、それが逆輸入されてこうなったと思うとそれも面白い。古橋秀之は後に正式な認可を受けたレンズマンを書いたり、SF者であることがみえる。

 作品としては海外アメコミ映画のダイジェストみたいなノリで、とにかく物語のテンポが速い。回想も謎解きも感情の動きすら、説明を極力省き、こういうノリならこういう物語展開だってわかるやろな精神で突き進んでいく。

 これはジャンル映画的な作品における説明しなくてもいい部分、つまり読み手がジャンルを知っていれば類推可能な部分を的確に見分け説明を飛ばしてもよい箇所を判断できる作者の情報選択の嗅覚と、最小限の情報量で作品を成立させる腕力があってこそだと思う。なぜブラックロッドが選ばれたのか、とか、ラストの諸々の謎解きとか明確で読解の余地がないセリフによる説明がなされるあたりは、ある種の「ラノベは言葉で全部説明しすぎ」というジャンルへの批判直撃の作りで、このころから今まであまり変わってないなあと思う部分もあるし、それは決して悪いことではないと思う。

 冷酷無比のブラックロッドが負った傷、軽薄だが何かを背負う吸血鬼、謎の敵、わけわかんないけどかっこいい世界と巨大な陰謀、とこの作品がバキバキに放つ熱量が当時の中二心にどれだけ突き刺さったか計り知れないし、それが刺さった読者やクリエイターへの影響を考えると、紛れもなくラノベというジャンルの形成に影響を与えた一作だと思う。

 ラノベは古典が読み継がれにくいジャンルだと思うのだけれど、こうして時折意識して古いものを読むとそれはそれで面白いので、昔ラノベを読んでいた人とか昔も今も読み続けている人とか、若い読者も、たまには古いものも読んでみると楽しいかもしれませんよ。