ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

読書感想 『偶然の聖地(著:宮内悠介)』※ネタバレ

 宮内悠介著の小説『偶然の聖地』を読んだので感想。

 表紙の序文によれば「エッセイと小説の中間のようなもの」という依頼で雑誌「IN POCKET(廃刊)」に連載された作品をまとめたもの。

 登ると願いを叶えてくれるが地図にはなく行き方も不明という伝説の“存在しない山”イシュクト山を目指す主人公の旅路にある不可思議な殺人を追う警官の捜査が絡み合い、さらにそこに世界のバグを修復するエンジニア“世界医”が現れ、というかなり壮大な冒険が主軸となるが、ただの冒険小説とは様子が違う。

 まず全編にわたって作者による注釈が記載されている。注釈は作中用語の解説、執筆時の小話、元ネタになった作者本人の旅の思い出、関係ない話、と様々。「エッセイと小説の中間」って小説だろう、という作者のセルフツッコミがあるが、だからだろうか本作は物語構造をメタフィクションにしている。メタフィクションに、作者の実体験と物語が混ざり不思議な質感の物語になっている。

 オブジェクト指向プログラミング等の設計思想を使ってのメタフィクション論や世界観設計は楽しく、作者の実体験を踏まえた旅行風景は楽しい。そしてメタフィクション論や旅行記、奇妙な世界の姿の合間にメインの物語が顔をのぞかせるとき、普通の小説を読んでいるときとはまたことなるフィクションの快感がある。不思議な本だ。面白い。