ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

万有引力とは引き合う孤独の力 映画『異人たち』※ネタバレ

 映画『異人たち』を観たので感想。アンドリュー・ヘイ監督、主演はアンドリュー・スコット、原作は山田太一の小説『異人たちとの夏』。

 

あらすじ

夜になると人の気配が遠のく、ロンドンのタワーマンションに一人暮らす脚本家アダムは、偶然同じマンションの謎めいた住人、ハリーの訪問で、ありふれた日常に変化が訪れる。ハリーとの関係が深まるにつれて、アダムは遠い子供の頃の世界に引き戻され、30年前に死別した両親が、そのままの姿で目の前に現れる。想像もしなかった再会に固く閉ざしていた心が解きほぐされていくのを感じるのだったが、その先には思いもしない世界が広がっていた… 公式サイトより引用

異人たち | Searchlight Pictures Japan

 

 淡い光で彩られた画面、じっと孤独に耐えるアンドリュー・スコットの表情、幻と現実を揺蕩う曖昧な構造、どれも美しく端正で静かな映画。

 アイアンクローに続けて名作に出会えた。

 

 主人公はゲイであることを両親に打ち明けることができなかった。両親の無意識下での偏見や差別意識を幼いながらに汲み取っていたからだ。このことが明かされる前半部で、主人公が社会にとっての異人であるのかと思い込んでしまうのだが、そうではない。原題はAll of us STRANGERで、誰もが異人であることをタイトルで明示している。劇中でクィアという言葉を巡って、恋人のハリーとの間で認識の差が描かれている。ここでは恋しあう同性愛者同士であっても、世代という差は存在することが描かれる。

 家族、恋人、という最も身近であるはずの他者にすら共有不可能な領域、つまりは孤独があることをはっきりと描いている。だが本作はその孤独を絶望とはみていない。孤独を受け入れた先に、誰かとつながることができるのだという姿をみせてくれる。この優しさに満ちたラストシーンが私のようなシスヘテロ男性であっても本作が得難い特別な映画になっている所以だろうと思う(当然、当事者の監督と俳優を起用した本作は当事者にとってもより重要な映画なのだろうということも想像できるけれど)。

 ラスト、抱き合った二人が宇宙に浮かぶ星になって終わる、どこかレトロな結末を迎える。これは谷川俊太郎の「万有引力とは引き合う孤独の力」というあの有名な詩を思い出す。隔たり、離れ、決して触れ合わなくても、それでも抱きしめることはできるのだという希望。その普遍的な優しさが本作にはある。