ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

作り手の誰も演劇好きじゃないんじゃないか 映画感想『ある閉ざされた雪の山荘で』※ネタバレ

 映画『ある閉ざされた雪の山荘で』を観ました。配信で鑑賞。

 

あらすじ

ごく普通のペンションに集められた七人の俳優。新作舞台の最終オーディションとして『猛吹雪で閉ざされた山荘に集う男女』という設定で過ごすように劇団主催から命じられた彼らは思い思いに過ごしていく。だが突然、一人の役者が消える。主催から「○○は殺された」という設定が届き、一人また一人と犠牲者が増えていく。主催の目的は何か、犯人はどの役者か、集った俳優たちは疑心暗鬼の中で犯人を捜していく。

 原作はヒットメーカー東野圭吾。第46回日本推理作家協会賞(長編部門)候補作。

 

 以下、結末までネタバレあり。仕掛けが重要なタイプの推理小説なので本作または原作小説を今後チェックする可能性があれば絶対読まない方がいいです。

 あと全く褒めていないので本作が好きな方も読まない方がいい。

 

 面白くなかった。

 原作は絶対面白いのだろうなとも。なぜなら仕掛けは抜群に面白いから。

 独裁的な主催に仕切られその関係性が常態化した劇団の劇団員たちが「ここは雪に閉ざされた山荘」と命じられることで、普通の場所が密室になり、外部へアクセスすることを相互に禁じ合うというアイデアが非常に面白い。さらに殺人の虚実が不確かになる展開もスリリングで、結末の「真犯人」「実行犯」「その他」で異なる景色を観ている構造も超良い。ただ全体的に絶対に小説をうまく映画の尺にまとめられてないんだろうなという印象が強い。未読なので的外れかもしれないけれど。

 

 主催役がなぜか大塚明夫だ。人気声優をキャスティングして話題性を獲得、というのは非常に邦画っぽい。劇団主催で知名度のある舞台俳優ってたくさんいるのにな。

 演技が全体的に酷い。これは役者の技量というより演出の問題が大きいのではないか。セリフが妙で、特に女性のセリフに違和感が強い。大作邦画にありがちな大げさな演技を求めながら、そこに偏見でしかない『映画に出てきがちな演劇演技』というさらに大仰で大げさな芝居をつけているので、全体が大変緩慢で大仰で嘘くさい。特に笠原(堀田真由)なんて行動も感情も異様で、これは上手い演技にはなりようがないんじゃないか。 主演の重岡さんはセリフの句読点ごとに少し間が空き、その都度表情がそのセリフ用のものに変わるので、そもそも芝居に慣れていないように見える。本人のキャラと、原作のキャラと、その二つを取り込もうとしたシナリオの間に齟齬がある気がする。終盤のお茶に顔つっこむとこで湯気がCGで入っているのだけれど、冷めているタイミングで、かつ熱湯そのままにはなりにくいお茶で、それでも顔をつっこめとシナリオ(もしくは原作)に書いてあるので激突するシーンのみCGで湯気を入れて熱湯を装うという場当たり的な細工が、そのままこの映画の作り手の姿勢に思える。

 演劇のシーンとか、舞台写真とか、そもそものペンションでの各人のふるまいとか、かなり濃い偏見の舞台演技に見える。作り手の誰も演劇をさして好きではなく、たんに大仰に大げさに臭い芝居を前の人のセリフや動作が終わったら順番にやれば舞台だとばかりの演出・演技だった。

 最後に一同で舞台に立つが(これは想像なのか現実なのかわからないけれど)絶対にそんな主催がいる劇団はやめた方がいい。あとよく田所と一緒にやれるな。

 映像的な工夫は多くその瞬間は面白い気もしたが、終わってみるとあまり効果が。

 

 これは原作通りなのかもしれないけれど、これって真犯人にまつわる謎が解かれなかったらどうするつもりだったんだろう。あと原作では主催をどう装ったのだろう。

 

 ちなみに予告で「果てしてこれはフィクションか? それとも本当の連続殺人か?」とあるが、本当の殺人である可能性が提示されるのは本作のミッドポイント、全体の半分が進んだ位置なのでちょっとネタバレが過ぎる気がする。本当に殺人が起きているという前提で観ちゃうと、結構前半怠くないか?

 

 閉鎖的で性が乱れ人間関係がしんどい、という小劇場の問題を前提とした作品の構造もどうかと思うが、それを性加害やハラスメントを消化できていない邦画がやる構造はそれはそれでグロい。