ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

救われない者たちの煉獄 映画感想『沈黙のパレード』※ネタバレ

 ガリレオシリーズ『沈黙のパレード』を観たので感想。

 テレビ放送するということで先んじて配信でチェック。

 人気ドラマ『ガリレオシリーズ』の劇場映画第3弾。監督は西谷弘、脚本は福田靖
が前作から続投。

 ・あらすじ

 三年前に行方不明になった並木沙織の遺体が、彼女と全く縁のない土地の火災現場から発見された。容疑者として浮かび上がる男・蓮沼はかつて警視庁捜査一課係長・草薙が担当した少女殺害事件の容疑者であり、完全黙秘による無罪を勝ち取っていた。同じく完全黙秘で釈放を勝ち取った蓮沼は沙織の遺族が暮らす菊野市に現れ遺族を挑発するが、その菊野市で行われるパレード当日に死亡する。死因不明、動機を持つ遺族には全員にアリバイ、この難事件に湯川が挑む。

 

 前作『真夏の方程式』はテレビドラマの実写化としては驚くほど脚本がシャープで演技も過剰なものがなく、特に映像はかなりこだわられて美しいとなかなかの良作(とはいえ犯人の行動原理がぶっ飛びすぎてなんだかなあとは思った)。映像的には前作の方が圧倒的によいけれど、今作も面白かった。

 冒頭から勢いよく沙織との幸せな時間を描き、彼女の死と同時に謎ダンスで幕を開けるオープニングシーケンスはかなりわくわくする。また、事件解決に向けて一気に動きだす際のテーマソングの流し方はめちゃくちゃテンションが上がって良い。

 今回もテレビ邦画っぽい過剰なモノはなく、無情な世界を訥々と語り続ける。テレビドラマから変わらないキャスト人が歳をとり、芝居が成熟した結果、湯川が抱える葛藤、草薙の後悔、どれもが演技で浮き上がりこちらを締め付けてくる。複雑な事件だが情報は過不足なく整理されておりわかりやすい。

 沙織の象徴としてキャラクターの周りを飛び回る黄色い蝶を見つめる表情で説明セリフ少なく彼らの心情を浮き上がらせ、その蝶を形作ったバレッタが最後に全てをまとめるピースになる演出はけっこう好きだ。それと謎ダンスも私は好き。誰にも救われることなく感情を跳ね回らせ行き場を探していた魂が囚われた精神的煉獄のような場所の表現だったと、勝手に考えている。ダンスで演出したがる監督ってたまにいるのだけれど、これって何の影響なんだろう。昔の舞台演劇か?

 ”警察が作り上げたモンスター”蓮沼の底抜けのクソっぷりが出ているあの表情ゾクゾクする。このくらいの芝居と演出でどのドラマも映画も作ってくれればいいのに。

 

 法が作り上げたモンスターと法に見捨てられた遺族、そしてその法に則らなければならない警官と真実を見出す科学者という対立構造の立て方も見事。平然と黙秘し非道を行える蓮沼と違い、遺族たちは復讐という大義名分があっても殺人への強い抵抗と罪悪感があり、彼らは善人であるがゆえに完全黙秘を選ぶことができない。その善性にむくいるために最後に草薙がある宣言をするシーンはかなり強い印象を残すいいラストだ。

 だけどなんだかなと思うところもある。

 結局、法が作り上げたモンスターを警察が解決することはできていない。ラストの草薙の宣言は取り返しのつかない段階での最後の贖いでしかない。全てを背負った一人を犠牲に遺族が救済されたかと言えばそれもよくわからない。遺族にとっては蓮沼はずっと犯人だったわけで、真犯人の事情が明かされても飯尾さんたちからすれば最初からそう思っていたことがそうだったってだけで、しかも知人は罪を犯していたわけだし、なんでちょっと前向きになった感じで終わっていたんだろう。蓮沼の犯行が立証できるかも? でみんな納得できるのか? 発端の一人が死に一人が獄中へ入っただけでただ無情に理不尽な世界が残っていただけにも思えるが、感動させるパワーで丸め込む物語の力が東野圭吾の凄さなのかも。

 原作から東野版オリエント急行ではという人もいるが、オリエント急行がその犯人の正当性をもって法と感情の狭間で揺れた探偵がとある決断を下すのに対し、本作はそこに「それでも法は守る」という前提と「オリエント急行は知られすぎているからどんでん返しを組み込む」という二つの工夫がされている。これによってオリエント急行みたいなカタルシスは生まれず、かわりに無情な現実のどうしようもなさが作品に立ち込める。これはこれでアリかなと思うが、類似性を見出すと感想中の思考がそっちによりすぎてしまって裏切られた気持ちになるのもわかる。

 

 一番なんだかなと思うところは、どんでん返しの沙織が殺される切欠となるシーン。ここで沙織が急に妊娠による歌手デビュー辞退を宣言する。回想で彼氏に「歌手諦めようかな」「一番好きなのは歌より彼氏」というセリフがあり、これがある種の伏線で、気弱になっていたわけではなくマジでそうだったってことになる。自分でプロのトレーニングを受け、デビュー秒読みでレコーディングまでして妊娠して私は幸せに生きたいってなんなんだキミ。彼氏もデビュー応援してんのに避妊くらいしろ。アホか。とどうしたって思ってしまう。家族や周囲の人が気弱な少女をそう追い込んだ、という見方もできなかないけど、そういうことなのかな。どうなんでしょう。

 このシーンの組み立ては正直ひどいと思っていて、これだと『一人の巨悪と法の隙間によって苦しむ家族』という構造そのものが崩れて『沙織も原因の一つ』となってしまう。それは確かに物語がひっくり返る大きなどんでん返しではあるけれど、通底するテーマとずれるどんでんは返さないでほしい。

 事件の隠された真実がなんだかなと思うところは真夏の方程式でもそうだったので、これはそもそも東野圭吾作品が私に合わないということなのかもしれない。