ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

キュートな映画 映画感想『ブルックリンでオペラを』※ネタバレ

 映画『ブルックリンでオペラを』を観たので感想を。

 

 あらすじ:オペラ作曲家のスティーブンはスランプに陥り鬱状態。妻で精神科医のパトリシアの勧めで愛犬と共に散歩に出たスティーブンは、曳船の船長である女性カトリーナと出会う。カトリーナとの出会いをきっかけにスランプを脱出するが、彼女の持つある秘密が大きな騒動を招くことに。さらにパトリシアの息子とその恋人の間にも大きな問題が訪れ……というお話。

 

 ピーター・ディンクレイジマリサ・トメイアン・ハサウェイの3人がメインキャストのロマコメがつまらないわけがない。

 そんな期待を裏切らないキュートなロマンチックコメディでした。観ていて気分がいい映画で大作目白押しのタイミングでこういう軽やかな映画を観るとまたいい。と書くと小規模で安い映画と思われそうだが、そうではない。アン・ハサウェイがプロデューサーを務める実力派キャストのリッチな映画で、音楽や映像や美術は全くケチっておらず、予算のあるロマコメという贅沢な映画になっている。しかし大人のコメディとして華美にはしない。だからこそ軽く観られる、そんなよくできた大人の映画だ。

 原題は『SHE CAME TO ME』。作曲家の主人公が女性との出会いを通して「アイディアが降りてくる」状況と、彼女との出会いの二つをかけたいいタイトル。とはいえ直訳で面白そうなタイトルに映るかというと難しいので、邦題もこれはこれで。

 

 以下、結末までネタバレあり。

 

 まずメイン三人の芝居がめっちゃ巧い。ディンクレイジの全く人の目を見れない男の芝居は憂鬱そうで、でもコメディ的なキャラっぽさもあって常に映画の中心に立つ力があった。アン・ハサウェイはコメディ力抜群でずっと感情ばバンバン揺れて楽しい。マリサ・トメイの、恋愛依存症の過去を負い目に恋をしては傷つき続ける、しかしその傷を笑顔の下に隠す善人でもある、という姿を佇まいで表現して映画に奥行きを与えている。

 予告では大人の三角関係みたいな印象を受けたが、本作のストーリーは二つのラインがある。カトリーナと出会って新作オペラを作りスランプを脱出するが、ベタぼれしたカトリーナがぐいぐい来て困り、さらにはパトリシアにもそれがバレてしまうというスティーブンの恋愛ライン。もう一つはパトリシアの連れ子ジュリアンと、パトリシア一家の家政婦の娘テレザの恋愛。

 人種差別主義者なテレザの父トレイが二人を引き裂くためにジュリアンを未成年淫行で訴訟しようとすることに端を発した逃走劇によって、この二つの恋愛が一つの物語に集約していく。例え破局が待っていようと未来を信じる若者たちを応援することで、過去に色々あって迷って間違えてな大人が一歩踏み出す勇気を得る。そしてどちらもハッピーエンドという真っすぐな物語は明るくて心地いい。

 二つの家庭の描き方がはっきり対照的で、家庭内での子供への干渉方の違いなんかも含めて明確でわかりやすく配置されており、見やすい。父トレイが、白人至上主義っぽくて学歴コンプで家父長制ダディという現代アメリカ映画のベタな悪党なんだけれど、彼のそういった資質が説明台詞なしてイベントとして小出しにされていくのでこのあたりもシナリオが巧い。

 コメディもすっきり楽しい。パトリシアが大落ちで修道女になっているのはたぶんギャグなんだけど、彼女の突っ走りすぎるところはちゃんとケアされたのだろうか。

 ただ恋愛の結末についてはかなり強引だったなあという印象があって、ここはちょっと役者のパワーで押し切った感じがする。