ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

テレビドラマ映画とは思えない映像美 映画感想『真夏の方程式』

 東野圭吾原作の人気ドラマ・ガリレオシリーズの劇場版第2作『真夏の方程式』を観たので感想を書きます。トリック、結末のネタバレがありますのでご注意を。

 

 海底資源開発が計画される玻璃ヶ浦。物理学者の湯川は、地元への開発説明会に招待される。説明会の翌日、湯川が宿泊する旅館・緑岩荘のもう一人の宿泊客・塚原が変死体で発見された。事件がおきた緑岩荘を経営する川畑夫婦、夫婦の娘で海を守るために資源開発に反対する成実、そして夏休みを過ごしに旅館を訪れた結果偶然事件に巻き込まれた川畑夫妻の甥・恭平。恭平との交流を通して事件の裏に隠されたある事実を知った湯川は、旅館の家族たちの過去にあるとある因縁に直面する。というお話。

 

 すげー良かった。劇場公開時に大画面で観たかったなとしみじみ。

 とにかく映像が素晴らしい。テレビドラマの映画化って、テレビドラマのルックのまま映画と言ってしまうみたいなもの多くて。特に昨今はテレビドラマでも人気のあるものだとカラーグレーディングもしっかりやってリッチな映像にしようとしているものが多い分、映画にした際に映像作りに本腰入れていないものが多い印象なのですが、本作は本当に映画的映像美をしっかりやっていて冒頭から超好印象。

 雪の降る夜を歩道橋を走る人物の主観で始まり、その主観が女性を刺し殺すことで物語が始まる。その夜の雪景色、冷たく暗い画面のつくりがまず素晴らしく、ベタだけどその中に赤い傘を差した被害者が映る瞬間のパッと色が鮮烈に映る瞬間はやっぱりいい。白と黒の景色、赤い傘、赤い血。と続く映像で冒頭から掴まれる。そこから暗い色味のまま続く過去の描写と、そこから一気に抜けた映像になるカラフルな美しい海。

 この映画、陰影が美しくて、過去や事件に関連する場面と輝かしい海や少年の楽しさで思いっきり色味を変えているのがいい。ベタっちゃベタだけど、そのベタを美しく表現されればそれは魅力の方が大きく映る。

 冒頭の殺人シーンから母娘の暗い表情、包丁のカット、と続けることで過去の事件の真相についてははっきりと示唆した状態で映画が始まる構成もまたいい。過去の秘密はわかりきっていて、その上で、では現在で起きた事件に隠された「謎」はなんなのか。というところに面白さがある。

 過去の秘密も夫婦の犯行動機もわりと明示したうえで、では物語の核心の謎は何かというと、事件の全てを紐解いたうえで明らかになるのが「血が繋がっていないことを理解した上で娘を愛した父」という愛の物語になっている構成が素晴らしかった。

 また、資源開発に揺れる島という舞台設定が一見無意味に見えるのだけれど、冒頭で開発説明会の場で湯川が発した「資源は人類に必要で、美しい自然もまた守るべきもの。きちんと両者を理解した上で、自分で選ぶ必要がある」という言葉が、そのままこの映画のテーマになっている。父の真実を知った上で成実は人生を選ぶし、恭平は無自覚に殺人の実行犯にさせられていたことを知った上で湯川の言葉を胸にこれからの人生を選ぶ。科学者がこの事件に配置された意味を、説明しすぎずに最低限のセリフで見事に構築するシナリオの巧さと、それを実現する映像美・役者の巧さが光る。どの役者も全員うまくて、特にともすればキャラの濃さが浮いてしまう湯川先生を現実的な人物として成立させる福山雅治の佇まいのうまさと、実父のために海に固執した杏が重治の本当の想いを知って大きく揺れる場面の表情がすっげーいい。

 

 ただこれらの映像の良さとか役者の良さ以外の部分、特に塚原の殺人事件に関する部分はかなーり腑に落ちない。

 自分が担当した事件が冤罪だった可能性に気付き調査にきた塚原を躊躇なく殺す、しかもかなり凝った方法で、というのはめちゃくちゃ腑に落ちない。しかも足が悪い重治は犯行を可能にするために甥の恭平を実行犯にしている。より納得がいかないというか、娘のために小学生の甥を使って殺人を実行する、しかも業務上過失致死傷である程度言い逃れ可能な状況にして、となると擁護のしようがないかなりいかれた殺人犯じゃねえかよと思う。容疑者Xでは犯人がとある目的のために無関係の人間を殺すことが一つの泣かせどころを作るキモになっているのだけれど、この事件はそんなことはなく、ただただ非道なわけで、それをXみたいな感動で落とされても困るなあと思った。