ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

セッ…… 映画感想『オペレーション・フォーチュン』※ネタバレ

 ステイサム主演、ガイ・リッチー監督のオペレーション・フォーチュンを観ました。

 以下、結末までネタバレあり。

 

 MI6御用達の凄腕エージェント、オーソン・フォーチュン。『100億ドルで取引されるヤバい何か』が盗まれたため奪還せよ、というミッションを命じられたオーソンは、コーディネーターのネイサン、天才ハッカーのサラ、スナイパーのJJと共に事件を追う。武器商人で巨万の富を築き社会の闇で暗躍する大富豪グレッグがかかわっていることを突き止めたオーソンは、グレッグが大ファンのハリウッドスター、ダニーを使った作戦を考案する。だが同じくグレッグを追うエージェント・マイクが彼らの行く手を阻む。

 

 というかなりベタな、古き良きスパイアクションのいった感じの物語。

 ステイサム演じるオーソンは凄腕の一方で高級ワインを経費で飲み、アクセサリーを経費で買い、任務後には経費でバカンスを楽しむという金食い虫。ダニエル・クレイグより前の時代のボンドみたいな、世界を飛び回りいい酒飲んで、というスパイ像から女たらし要素を抜いたようなキャラクター。

 ステイサム映画にありがちな、寡黙でユーモアはありとにかく強いというキャラで、ともすれば話があまりにベタ過ぎて他のステイサムと代り映えしない上に、強くて冷静な男が主人公だと物語も停滞しやすいところを、他のキャラの個性で補っている。

 女性エージェントのサラは凄腕ハッカーで敵地潜入もできるけど、下ネタ好きでキャラが濃い。実直なJJ、冷静沈着なオーソンとサラのキャラの温度差が楽しい。

 冒頭の規則的な足音だけが続く→規則的に歩く足が映る→BGMがそのリズムを引き取って続く、という演出から掴まれて、全体がその洒脱な演出で続くのでずっと楽しく飽きない。

 ミッション開始直後に別チームの妨害が入るスムーズな演出の緊張感の巧さ、敵組織が扱う「何か」は最後に明かされるが物語上別になんでもいいというまさにマクガフィンで、この辺りとても「こういうのでいいんだよ」感がある一方で、そんなベタな古き良きスパイ映画の軌道を通りつつ、ところどころでその王道をすかす感じがまた洒脱で面白い。

 ここからアクションが始まりそう、というタイミングで結果を省略して後から別の会話の中でその内実が明かされたり、普通ならアクションの山場に配置されるだろう武器商人の取引係や敵対チームのマイクといった面々とのバトルがギャグやあっさり終わったり、スターの恋人を寝取る趣味がある武器商人の老人という巨悪であるグレッグとは最後敵対しないで終わったり、そういったある種のスカシが独特な作劇の個性を出している。

 シナリオはとにかく丁寧で、自前でスタントまでこなすハリウッドスターであることを示す場面があると、それは案の定終盤のアクションに繋がる。しかもその彼の性質はアクションだけではなく、金銭では決して動かないスターで自分より下手な相手なら無理やりどかしてしまうような男が、金で手に入らないモノを欲する武器商人と出会った結果……という終盤の展開にも見事に結実する。ベタで肩に力が入らずに観られる映画、という評価の今作だが、そう観客に思わせるために徹底して構築されている。とてもいい。

 グレッグとダニーの顛末がこの映画の特異性かと思う。カダフィビンラディンを顧客としながら決して支払いを滞らせなかった巨悪グレッグは、スターが好きで、スターの恋人を寝取るのが好き。だが彼が本当に欲しかったものは、金でも権力でも靡かず、しかし自分の仕事人ぶりに畏敬の念を抱く青年だった、という「こんな巨悪がそんなロマンスなオチでいいのか?」と思うようなある種ひねくれた感じの顛末が、ともすれば平凡だと思われて終わりそうなこの映画に特異な輝きをもたらしていると思う。

 定番のアクションものをお約束通りの面白さにしつつ非凡なものにするという、難しいエンタメの王道のつくり方を見事に果たす監督・主演の円熟味がとても楽しめる。いい感じの映画だった。