ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

確かにそうなるよな 映画感想『黄龍の村』※ネタバレ

 ベイビーわるきゅーれの阪元裕吾監督の作品『黄龍の村』を観たので感想を書きます。絶対にネタバレを観ない方がいいし、ベイビーわるきゅーれが好きな人はだいたい楽しめるので未見の方は読まない方がいい。

 

 旅行を楽しむ若者たち。しかし帰りの山道でタイヤがパンクしてしまう。困った彼らは近くにある山中の集落「龍切村」に立ち寄る。村で出会った中年の男は、自分に任せろと彼らを家へ招く。家は奇妙な年功序列で支配されており、泊まるように提案する男に不気味な空気を感じるも、若者たちは一晩眠る。朝、目覚めた一人が外を見ると、奇妙な仮面をかぶった村人たちが家の周囲をうろついていた。さらに、仲間がひとり足りない。訝しむ青年のもとに、家で女中のように使われている女の一人が一枚の紙片を手渡した。そこには「助けて」の文字が。

 奇怪な儀式と惨劇の幕が切って落とされる。

 というお話。面白いのでみんな観ましょう。

 以下、ネタバレあり。

 

 冒頭、若者がはしゃぎ回る様子が彼らのスマホ映像で映される。そのまま仲間内で撮り合う映像だけで場面が進んでいき、村に入ったところで同じようなスマホ撮り映像で若者たちが橋を渡る姿が映るのだが、そこには若者が全員いて「あれ、これ誰が撮ってるの?」という映像になったと思ったら、彼らを監視する怪しい人影が。というタイトルが出るまでのシークエンスがとても好みで、ちゃんとホラーらしいことをしっかりしているから後半のジャンルの転回がしっかりと効果を生む。

 本作はたまに現れては話題になる、前半と後半でがらりとジャンルを変えるタイプの映画で、人食い村に訪れた不運な若者たちが惨殺されるベタなスプラッターかと思いきや、中盤で若者の半数が実はこの村の儀式で犠牲になった祖母の復讐のために犠牲者のふりをして村に入り込んだ復讐者たちだったことが判明すると、そこからは一気にいかれた村人を皆殺しにするアクション映画に様変わりする。

 映画「サプライズ」みたいな狩る側が狩られる側に反転する構造で、前例があるタイプの意外性のつくり方ではあるのだけれど、見せ方の工夫や前半のホラー展開の積み上げが上手いのでばっちり面白いし、ジャンルが転回する場面にはちゃんとびっくりできる。

 いかんせん低予算なので「村人皆殺しアクション」として考えると小粒で、村人の数を用意できないのか限界集落すぎてちょっと物足りない。あと、日本刀使いの不気味な強敵がいるのだけれど、彼が全く刀で戦わないのはとても肩透かし(しかしこの敵キャラが一番魅力的)。あと復讐者が多いわりに徒手空拳メインなので、ファイトスタイルこそ違えどアクションが続くと少し退屈でもある。しかし主演がちゃんと鍛えている動ける俳優で、やっぱり役者が自分で殴り合う芝居ができるタイプだとアクション映画は楽しいなと思う。

 荒唐無稽な設定や世界に乗っかる漫画っぽいキャラやセリフ回しがとても好みだった。あと、村の人食い儀式の祭壇に市販の酒とか置かれていて、この辺りのディテールは本当に田舎の祭事っぽくていい。

 最後は人食い儀式のために神の依り代として幽閉され、人肉だけで育てられた人間がラスボスとして現れて戦うのだけど、その神様が最後は仲間になっているのが良い。なんでかと言えば神様は幼少期に誘拐されて幽閉されていたわけで、主人公たちと同じ「青春を奪われた被害者」だから。オチの「劇終」といい、いい終わりの映画だった。

 どうでもいいことではあるが本作を見て、「村に呼び寄せた人間を殺すホラー村」って因習ができあがるほど長くやっているならそりゃ復讐者くらい現れるよなあと思った。

 一時間で終わるところも含めて、楽しい映画だったなー。