ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

贖うことのできない罪と、その先の希望について 映画感想『北極百貨店のコンシェルジュさん』※ネタバレ

 Production I.G.の劇場映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』を観たので感想を書きます。結末まで含めてネタバレあり。

 

 動物のお客様を人間のコンシェルジュがもてなす不思議な百貨店「北極百貨店」。多種多様な姿、生態、性格のお客様は曲者ばかり。試験採用の見習いコンシェルジュ・秋乃は、先輩社員に見守られながらお客様のために奮闘する。というお話。

 

 まず絵がいい。原作漫画の柔らかく美しい線を再現しながら、美しい華やかな色味の画面をキャラクターがせかせか動き回る。いわゆるヌルヌル動くアクションとはまた違う、漫画のコマとコマがスムーズにアニメーションとしてつながるようなあまり見ないタイプの美麗な作画。冒頭、ばたばた走りまわる子供の宮崎駿テイストの躍動感から、大人になった秋乃やホテル従業員たちのカッチリした動きや細かい所作の丁寧な作画、そして買い物する動物たちのポップな姿が合わさると、観ていてほれぼれする不思議な優しい実在感が生まれており、画面を観ているだけでニコニコできる。

 ストーリーはかなりシンプルで、不器用でミスが多いがお客に寄り添う心を持つ秋乃の奮闘の軌跡はかなりベタというかわかりやすい。しかしその真っすぐなキャラと真っすぐなストーリーが丁寧な作画で描かれると、展開が予想できようと既視感があろうと関係なく泣ける。

 しかしそんな一見すると優しい世界観のお仕事モノというベタで普通の物語に見えるこの映画が非凡なところは、この不思議な場所「北極百貨店」の設定だ。

 秋乃を見守る謎のペンギン・エルルの正体が明かされるとともに明らかになるこの百貨店の正体は、人間の手によって絶滅した動物たちを、人間が動物を絶滅させる最大の理由である「大量消費」できる場所「百貨店」に呼び込み、動物を滅ぼした人間によってそれをもてなさせるという、天国なのか地獄なのかわからない奇妙な空間だった。

 消費文明による生物の絶滅という人類の罪、それも決して取り戻せない罪を償う環境としての百貨店というアイデアが素晴らしい。消費された動物たちのために人間が消費されるという地獄は、動物が蘇ることはないし人類が消費を止めることもない、あの世で行われる空疎で終わらない復讐と贖罪だ。

 その復讐は言ってみれば、人類が反省も改善もしないだろうからせめてあの世で、という恨みと諦観が混ざったものに思える。しかし、本作のラストではその諦めの先を目指そうとするエルルの前に、秋乃が希望を見せる。その場面がとても美しい。

 もとは恨みの場所であっても、消費には罪があっても、その場所には他者と他者が繋がって生まれる絆があり、愛情があり、幸いが生まれる。もしかするとそれが新しい幸いの姿を作り、世界を変えるかもしれない。

 本作はその姿を「これから先拡がるかもしれない希望」として描いており、これで解決、とは描いていない。動物たちが未だ滅びに向かい続ける、現実の中で希望の描き方としてここまでで留めるその姿勢がまた非常に誠実だと思う。

 なぜなら、このアニメを作ったのは人類だからだ。

 

 ところで冒頭で百貨店に人類のお客様が入ってくるのだけれど、これって人類滅んだの?