リドリー・スコット監督のナポレオンを観たので感想。ネタバレありです。
トゥーロン攻囲戦～セントヘレナで没するまでのナポレオン・ボナパルトの栄光と転落を、ジョセフィーヌとの奇妙な関係を通して描く映画。
全編リッチな画作りで、戦争シーンは言わずもがな、サロンで政情について語るだけのシーンでも観ていてずっと楽しい。
戦争の描き方は圧巻で、国会へ行進する王党派の市民の更新に真正面から大砲をぶっ放す暴力の効果、予告編で使われるアウステルリッツの戦いで連合軍が凍った湖に落とされる様を描く恐怖、そして人海戦術で人間の命が膨大に消費される様、どこを取っても戦略・戦術において人命が消費される資材に過ぎないことが描写されており、ハードで凄惨。マジで戦争っていやだし、歩兵になんてなりたくねえと思う。
戦略家としての描写は有能のひとことで、経験値の浅い段階ではけっこう緊張していたりするのだが、そこから昇進と勝利を重ねるごとにどんどんと堂々とした姿になる。最後に表示されるとおり人命の浪費者であり、戦争の権化となって、ある種の機能的な姿にまでなっていく。皇帝としてのナポレオンと、人間としてのジョセフィーヌを前にするナポレオンの対比が面白い。
そしてその戦争描写以上に面白いのが最愛の妻・ジョセフィーヌとの関係。有能な軍人でバンバン出世するナポレオンだが、最愛の一人の女性には敵わない。一方のジョセフィーヌは男性経験豊富で、ナポレオンを手玉にとれるし、性的な面ではナポレオンにたぶん満足していないのだが、やはりナポレオンに強く執着している。この変人夫婦の関係性が素晴らしく奇妙で面白い。
二人のシーンは喜劇で、ナポレオンが初めてジョセフィーヌの家に招かれたときには、かなり緊張したナポレオンが「ヤレるんじゃないか？」という空気にふんふん息が荒くなるその吐息の音が無音の部屋に響く。こういう息遣いの部分も、劇場の音響でなければ味わえない。浮気されてブチ切れてジョセフィーヌを罵ったあと、反論されてシュンとやりこめられたり、居眠りしたり、こっそり別で子供用意しようとして失敗したり、まあ色々と ナポレオンの人間味と戦場のギャップが変な空気を作っていて、そこは好き嫌いがわかれるのかもしれないな。私は非常に好きだ。
本作はナポレオンが運命に選ばれ時代にのって天下を獲り、そして栄光から転落する様を追うにあたって、その運命をジョセフィーヌという女性に置いて描いている。だから運命と踊る間彼は栄光を進み、運命を手放し運命もまた一つ別のものを手放した途端に全てが崩れ去ったのだという、そういう映画なのだと思う。
婚姻と離婚のシーンでの二人の対比、婚姻の際に自分でペンを取ったジョセフィーヌが離婚時には笑うしかなくて自分ではペンを取れないとこは泣けるし、同じく対比でいくとトゥーロンでは勇猛に自ら剣を取って戦ったナポレオンが最後は「まともに戦えていない」と言われるほどになる様もなんともいい。
全体的に満足な映画だった。
