ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

読書感想『ブギーポップは呪われる(上遠野浩平)』

 ブギーポップ久々の最新作『ブギーポップは呪われる』を読んだので感想。

 結末までネタバレあり。

 

 水乃星透子の死後、深陽学園では「この学校は呪われている」という噂が流れていた。生徒の暴走ともいえる暴力沙汰が頻発し、学園に流れる噂は学園に深刻な影を落とす。炎の魔女すら事態の核心にたどり着けないその【呪い】は、学園を飲み込み、ついには統和機構の監査役ギノルタ・エージにまで到達しようとしていた。水乃星透子の死後に現れた呪いの正体とは。というお話。

 

 面白い。面白いのだけれど、相変わらず終わりへ向かわず同じところをぐるぐる回り続けるようなシリーズである。なんならここ何年かはずっと、別シリーズで上遠野浩平サーガの核心が明かされている気がする。そしてファンはこの永遠に終わらないかもしれないグルグル回る歩みにひたすらついていく。呪いに先導されるような感じで。

 今回も昨今の上遠野作品と変わるところはなく、ほぼ会話で、各キャラがああだこうだ抽象的な会話を続けて問題が解決したりしなかったりする。いつも通り特殊効果無効のブギーポップが完封するし、炎の魔女は真っすぐで、そして相変わらず水乃星透子は圧倒的だ。新刻敬も末間和子も出るし、製造人間シリーズからギノルタが出て、さらにカチューシャも出る。新しさはなくいつも通りだけれど、そんな感じで大量の既存キャラが出てくればわりと満足はする。特異なシリーズである。

 今回は百合原美奈子(マンティコアが外見をコピーした人)が出てくるというのは、ちょっと驚き。好きだったが、親密ではなかった相手の死と直面した少年、というモチーフは歪曲王と重なるが、今回は真っすぐ乗り越えていく物語だ。

 「呪い」というのは、事件シリーズ以降重要なテーマで、「呪い」「呪詛」という言葉はブギーポップ世界と境界を隔てた異世界で頻出する。呪いは誰もが抱える自分自身の心の影であり、それが重なれば影は混じり合い「誰が決めたわからないけれどそうしなければならないもの」が生まれていく。そして人は自分が理解できない理不尽を「呪い」として無理やり説明して飲み込む。そんな影を操り人間を従えるMPLS“シャドゥプレイ”が今回の「世界の敵」。相変わらずシャドゥプレイも水乃星透子の影響下にあり、ブギーポップは今回も彼女の死後の掃除係である。

 結局シャドゥプレイは水乃星透子の強大さを理解できず、炎の魔女という異常存在を制御できず、「呪い」を越えて動ける少年の善意すら潰せない。そして世界を手に出来ると思えた「呪い」すら、死者がもつ永劫解けることのない絶望「呪詛」を前には何の力も持たない。圧倒的力を持つ前にただ何もなさずに消えていくだけという、無情な話だった。「呪いは拡散していつかわからなくなる」というのは、新しく出てきた概念だけれど、こういう「水乃星透子が何をしようとしていたか」は本当に描かれるのだろうか。

 

 本作を読んでいて、私が驚くほど過去作を覚えていないことがよくわかった。若いころ読んだ初期作は覚えているのだけれど、ギノルタがなんだったか全く思い出せなかったし、カチューシャについてもうろ覚え。そういえばパニックキュートあたりの話は覚えていない。でもブギーポップを読むのは、なんでかそうすべきだと思っている。

 呪いか?