ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

真面目に中二病によりそう作品は稀な気がする 読書感想『AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜(田中ロミオ)』

 AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜を読んだ。2008年、ガガガ文庫より刊行。作者は言わずと知れたエロゲーライター田中ロミオ。ガガガは初期にはエロゲーライターを積極起用していた(というか、一時のラノベ・アニメ業界は積極的にエロゲーカルチャーから人を引き込みまくっていた)。若き日の私も宣伝でそれらを見ており、そういえばなんでこの本をあの時読んでいなかったのだろうと不思議に思う。

 紛れもない傑作なので、あのころ、若き日の自分が手に取らなかったことを後悔している。傑作ラノベはおじさんになってから読んでも面白いが、それは絶対に、若いころ読むのとは感覚が違うから。

 中二病モノが流行った時期があり、ライトノベルにおいて一時期中二病という属性は重要だった。今でいうとどのジャンルに類似するのだろうかと考えると、友崎君とかラムネみたいなスクールカーストものだろうか。しかしスクールカーストものが、たいていはそれをただのゲームの舞台、もしくはそれを作り出すマッチョなカルチャーに乗っかる(つまり抑圧する側につく)話になってしまってスクールカースト問題自体には向き合っていないのと同じように、中二病ものがその病理、十代の痛さ、若いオタクが惹かれる理由、そしてそれの功罪というところに向き合うものは少なかったと思う。

 本作はそこにしっかり向き合っていて、同時にそんな痛い人間も割と取り返しのつかないことになった人間も結構いる普通の人間なんだと示してくれるのが真摯だと思う。中二病がいじめの理由になるという社会の「当たり前」に向き合いつつ、そんな社会の狭量さを悪役に負わせるのではなく、社会に負わせているあたりもいい。

 そしてフィクションとしてのやさしさもある。中二病のまま大人になって楽しく生きている人間を出すのも、ある種の、若い人たちへの個性や憧れをゆがめて望まれるような真っすぐさを選択しない道があることも見せてくれる。

 誠実な大人の小説だと思う。ライトノベルというもので、ラブコメという枠で、そういった誠実さを見せられると、年とってから読んでいるこっちはその姿勢にこそ感動する。不朽の名作ラノベ。古典だと思う。