ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

フィクションが作家を永遠にする 読書感想『アーカム計画(ロバート・ブロック)』

 アーカム計画を読んだ。クトゥルフものの傑作と名高い一作。絶版。

 結末までネタバレあり

 

 アーカム計画、略すとA計劃。つまりジャッキーチェンはクトゥルフ。A計劃からペンネームを取った伊藤計劃クトゥルフ。と考えていたら原題はStrange Eonsだった。

 「ラブクラフトクトゥルフ」に愛が溢れている傑作。超常存在があり、それは残忍で執念深く悪意に見ていて、そして理解できないという世界。情け容赦なく勝ち目もない相手がめちゃくちゃ執念深いという絶望感。本作は3幕にわかれており、最初の二つは人類のクトゥルフへの挑戦→恐ろしい旧支配者の先回りで敗北、が続く。しかし絶望的な二幕のラストからその先に物語が続き、一見、一度世界の滅亡が回避されたように見える。だが三幕ではさらに大きな絶望と、圧巻の大絶望が待っている。そしてその絶望感と存在しえないはずの存在が描写される景色に、神々しさやある種の爽快感がある。

 

 ラブクラフトの作品に出てきたピックマンのモデルの絵画が見つかる、そして現実に幾多のラブクラフト作品との重なりが見え、ラブクラフトが真実を語っていたのではないかと思われる。という出だしでもう百点満点なのだが、そこからずっとラブクラフトが軸に一冊の長編が造られる様は圧巻。愛にあふれている。

 ラブクラフトものって二次創作どころか、もうただワードやアイデアをパクってそれを正当化するみたいなやっすいものが多くて、こういう王道を読むと感嘆する。

 この作品は一つのラブレターであり、そしてラブクラフトを永遠にする儀式だと思う。フィクションが語り続けられる限り、その作品は永遠の命を得る。そしてクトゥルフ神話の特異性は、誰かが創った作品が誰かに引き継がれる。誰もが神の使途になり、そして神を拡張していく。ラブクラフトは永遠に膨張し続ける。

 ラスト、「夢見るものは死んだ」と語られる。ラブクラフトは死んだ。このラストはラブクラフトが死に、本物のクトゥルフの物語が絶えたという悲嘆なのかもしれない。でも違うといいなと思いたい。ラブクラフトの遺伝子を引き継いだ次世代の神々がまた何度も世界を滅ぼして、何度も人類を蹂躙してくれるのだ。