ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

本当に読んで良かった最終巻。『ダブルブリッドX(最終巻)』

 ダブルブリッドX(10巻)を読んだ。作者は中村恵里加さん。1999年に電撃ゲーム小説大賞を受賞、2000年に本シリーズでデビュー。20世紀のラノベ。本シリーズは2000年にスタートし2003年までに一気に9巻まで出たのだが、その後ストップ。最終巻は四年半後の2008年となった。私は9巻まで読んで、その後最終巻が出たころにはすっかり忘れてしまったのだが、ふいにネットサーフィン中に思い出したので20年近くの時を経て完結を味わう。一か八か読み返さずに当時の記憶だけで読んだ。

 

 「怪(あやかし)」と呼ばれる特異な遺伝子を持つ異形の生物が人間と共に暮らす世界。危険な怪の捕縛を専門とする部隊の隊員・山崎と、怪と人の間に生まれたダブルブリッド・片倉。二人は唯一無二の相棒としていくつもの事件を解決し親交を結び、互いに成長していく。しかし山崎はアヤカシを殺す剣“童子斬り”に取りつかれ理性を奪われ、片倉はその出自の特殊性ゆえに早くに訪れる寿命によって記憶を失っていく。友以上の関係だった二人は、互いを認識できないまま激突する。暗躍を続ける謎の“主”、正体不明の計画「Ωサーキット」の正体。と盛りだくさんの最終巻。

 

 意外にも9巻までの内容をしっかり覚えていた。むしろ読み返さなかったことで、ああこんなやついたなと思いだす楽しさみたいなもんがわいてくる。ひょんなことから何年振りかに会った昔仲の良かったやつと再会したような感覚。

 短い寿命を設定された片倉と山崎の間に積み上げられた愛が、童子斬りと主という二つの大きな力に無残に引き裂かれ、そして殺しあう状況が作り上げられる。その無残な設定は90年代からのオタジャンルにはよくある、愛する者よ死に候えなノリなんですけど、この作品はあまり時代性を大きく取り込んではいないシンプルな構造なので、現在読んでも古さを感じない。

 んで、何年も待たせて一気に終わらせた最終巻だけあって、詰込み過ぎってところはいなめない。ばたばたと各キャラが幕を下ろしていく。特にさんざん引っ張ってきたΩサーキットの正体はけっこうあっさり明かされるし、主の顛末もものすごい勢いで畳んでしまっているので唐突感が強い。しかし面白い。安藤さんのべた惚れなとことか笑えるし、十年も生きられないキマイラ片倉晃に提示される答とか、見どころも多い。

 なによりラストは圧巻だった。この作品にしかない個性がある。

 兇人となった山崎。人間の愛情に隣接する支配欲や執着、妄執が童子斬りで強化された結果、愛する人だけを殺す殺人マシーンなるって流れも独特。そしてそこを超える、人でもアヤカシでもない片倉の思いもまた独特だった。しかしその先に、血まみれの先にある、真っすぐすぎる愛の物語としてのハッピーエンドは素晴らしい。

 あのロマンチックなラストよ。愛する人に左手の薬指をちぎって渡し、そして山崎は片倉の左の薬指を食いちぎる。血まみれで悲惨で、しかし美しい、この作品でしかたどり着けないラスト。読んでよかった。

 本当に読んでよかった。二十年近く私の記憶の中では山崎は童子斬りに飲み込まれ、片倉は愛する人の記憶を失っていたわけで、それがようやく終わった。こんなきれいな結末だったんだな。

 浦木みたいなトリックスターで丁寧語で独特の執着を持つキャラって、昔はどこにでもいたよね。彼らはどこへ行ってしまったのだろう。