ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

読書感想 深見真 「ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年」

 深見真著、ブロークン・フィストの一巻を読んだ。

 第1回富士見ヤングミステリー大賞を受賞した一作であり、現在も現役で作家として活動し、PSYCHO-PASS サイコパスなどのアニメ脚本・シリーズ構成でも活躍する深見真のデビュー作。2002年発売。

 富士見ミステリー文庫という、富士見ファンタジア文庫が21世紀初頭に版図をひろげようとした結果生まれた奇妙なレーベルの新人賞最初の大賞受賞者。最初からこれなんだから迷走している。その後もミステリー文庫にはいい作品が生まれるものの迷走は続き、ドラゴンマガジンの審査員選評での審査員の言葉にも応募作へのミステリー的なクオリティへの苦言がぽろぽろ出ていたように思う。

 しかし十代の私がラノベにはまったのは、この作品やミステリー文庫のような、ジャンルの秩序が固まる前のわけわからん面白いものが読めるからだった。こういう作家側のヘンな情熱とか、荒い面白さは、もう新人賞取れないしWEB投稿サイトでも頑張って掘らないと見つけられない気がする。

 本作は深見真のデビュー作なのに電子書籍化されていない。絶版。もったいない。

 

 作品と関係ない話が続いてしまった。以下、感想。トリックのネタバレもあるのでご注意を。

 

 空手部の合宿に参加した羽山と武田は、合宿所で殺人事件に遭遇する。空手の達人である空手部主将が密室で殺害されていた。被害者は転落死に近い大きな傷を胸に負い、凶器はない。果たして犯人はどのように密室で転落死を作り上げたのか。明かされるくらい過去を背負う武田の正体、そして解き明かされる史上初めて完全密室で実行された殺人トリック「古流兵術式密室」とは?

 という物語。発売当初ネットの一部で話題になったトンデモトリックは今読んでもなかなか楽しい。

 いきなりトリックのネタバラシをすると、犯人は戦国の世から連綿と続いてきた殺人拳の使い手で、中国拳法の浸透勁、骨法の透しに通じる衝撃だけを対象へ通し打撃の命中位置より先を破壊する拳法を使い、密室の壁の向こうから打撃を打ち込んで相手を殺害していた。

 この世界には歴史の表舞台には現れない想像を絶する格闘家がいたのだ。というミステリにあるまじきオチ。といっても、推理小説にもファンタジーや超能力とジャンルミックスするものは存在してその中には同じくらいかより突飛なものは存在する。本作はそれらの中で名作とか壁本バカミスと呼ばれるものほど、論理性や結論へのフェアネスはちゃんとしていない。なんか不思議な空手部員がいて、突然彼に異常な力があるというのが明かされ、それが伏線なのだけれど、さすがにミステリーとしてはあまりしっかりしていないだろうそれはと思う。

 ただ一方でラノベでこれをやるってのが面白い。

 超常の力を持つ高校生というライトノベルのテンプレートは、それを客観視すればアンフェアなトリックになるという構造の、その視点が面白い。トリックの正当性のために設定される闇の格闘技と、それを前提に明かされる真相、そして当然超常の力があればこそ当然始まる謎解き後のバトル。とトリッキーなミステリーに見えるが、その物語の構造はライトノベルらしさに乗っかるようになっている。また、百合・格闘技・強い女性、と作者が書きたいものを求められるヤングミステリーのフォーマットに落とし込むのはその後の作者の活躍がわかるような、きちんとしたエンタメのつくり方だと思う。

 あとがきにはラノベやアニメなどのエンタメにおける女性キャラのテンプレ性への文句が見え、そこのところも面白い。