ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

ラジオドラマ感想『FMシアター あの子の風鈴』

 NHKラジオFMシアターで第44回BKラジオドラマ脚本賞最優秀賞受賞作品 FMシアター「あの子の風鈴」を聞いたので感想。

 【あらすじ】
食堂を営む香苗(44)の娘・るい(14)。夏休みだというのに毎日お手伝いばかりで、水族館にも連れて行ってもらえない。香苗は度々食堂にやって来る女の子・望(14)のことをいつも気にかけ、望の食べたいものを作ってあげている。母はなぜ望ばかりを気にかけるのか。るいは、望を嫌い、母にも苛立ちが抑えられない。ある日、望が子猫を助けてやるが、るいは「飼えないのに身勝手だ」と文句を言って店から子猫を追い出し、母には「望が猫を逃がした」と嘘をつく。それでも望を心配する母。るいは、望が母の大切にしているものを壊すようにしむけてしまう。望は食堂に来なくなり、ひどく悲しむ母に、るいは怒りをぶつけてしまう…。
人を受け入れ、思いやることの大切さを伝える、ひと夏の青春物語。 【作】佐藤あい子【演出】小島史敬【出演】住田萌乃, 戸田菜穂, 白鳥玉季, 木内義一, 野中政宏【音楽】滝澤みのり FMシアター公式サイトより引用『あの子の風鈴』 - FMシアター - NHK

 作者は東京新聞の記者で、映画のシナリオ等すでに活躍されているそうだ。本作はNHK関西の企画するラジオドラマ賞で、前年までは関西を舞台とする条件があったが今回から撤廃されたそうだ。本作の舞台は鎌倉になっている。

 

 設定のチョイスがよくて、揺れる風鈴、海、観光客の華やかな風景とそれを支える生活者視点のギャップ、と音声のみの媒体でも世界をスムーズに想像できる。さすが受賞作だなという腕前。賢い人がしっかり過去作を調査して組み上げた作品といった印象で、お手本のようなかっちりした三幕構成のシナリオには既視感が多いけれど、その分手堅い。ただメインの二人は中二にしては幼いなと思う。設定みるまで小5くらいの子供かと思った。

 

 るいと望の二人が非常によい。芝居もいい。特にるいは常に揺れ続ける自分の感情に振り回されて、彼女の嫉妬や憧れや閉塞感といったものに揺り動かされて取ってしまう酷い(だけど切実な背景のある)行動の痛々しさと悲しさが声からびりびり伝わってくる。50分の長尺ラジオドラマをこの小さな感情の揺れだけで保てるというのが、素晴らしい。ラストのほのかな苦さも大変好み。望があまりに主人公家族にとって都合がいいと思うけど。

 

 反面、大人たちの造形はかなり苦手なタイプだ。先日観た映画「燈火(ネオン)は消えず」でも思ったけれど、老いた大人の後悔や無責任を子供に慰撫させる系作品がどうにも苦手だ。出来不出来、面白いつまらないを越えて肌に合わない。大人が子供を使って自分を慰めている状況から変化が出る話ならいいのだが、それが完全に子供を自分の心を支えさせるためのマッサージチェアにしているとゲンナリする。この作品は、主人公のるいを覆いつくす世界がまさにそんな感じで、きつい。

 田辺がけっこうしんどい人で、娘でもない思春期の子供を車に乗せて遠回りして拘束した挙句延々自分の言いたいことを話す。これはきつい。物語上、彼がべらべら話して気に入られようと行動しないと諸々動かないからそうなるのはわかるのだけど、主人公の人生に感じる閉塞感はこの男が自分の母親に性欲を向ける状況にずっと拘束されていることが大きいんじゃないか。

 定食の汁物を絶対持ってこない香苗がなぜか望を贔屓する理由は、幼いころに望に似た境遇の友人へ酷い仕打ちをした過去への贖罪だったとわかる。けどこのネタバラシでかなり不快な人物になったと思う。香苗は娘が甘えると「そういうのやめて、疲れるから」という人間である。田辺への対応も曖昧だ。つまるところ香苗は人に冷たくした過去を悔やんで他者にやさしくしようと振舞っている人間ではなく、自己完結の贖罪だけを進めてきた人間だ。その執着の要である風鈴が割れて子供たちを傷つけたことに気付いたように見えるが、なんかシナリオの理屈はわかるが、理屈しか通っていない気がする。受験の年になっても望のために食堂に残る決意をしているが、それって自己中心的な母を中心として彼女に閉塞感を与えるこの世界に縛り付けるラストということで、ハッピーでは決してないんじゃないか。

 あとこのラジオドラマ、大人が妙な生々しさをみせるところと、大人が物語を進めるために都合よく動くところのギャップが大きい。