ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

おばあちゃん甘やかし映画 映画感想『燈火(ネオン)は消えず』※ネタバレ

 燈火は消えず、を観たので感想。ネタバレありです。監督・脚本:アナスタシア・フォン、プロデューサー:サヴィル・チャン、主演:シルヴィア・チャン

 

 あらすじ:香港のネオン職人だった夫を亡くし失意に暮れる妻メイヒョンは、夫の遺品からネオン工房の鍵を見つける。ネオン職人を廃業したはずの夫がなぜ鍵を持っていたのか疑問に思ったメイヒョンが工房を訪ねると、そこには夫の弟子を名乗る見知らぬ青年レオがいた。レオから夫には作りたかったネオンがあったことを聞き、それを完成させるために二人は奔走する。一方、メイヒョンの一人娘チョイホンは母との不仲のまま海外へ移住しようとしていた。夫の求めた作品とは、娘との関係は。

 

 

 100万ドルの夜景としてある世代までは香港のイメージとして共有可能な景色、縦横無尽のネオン看板たちが法改正によって消えた香港。ネオンが消え、ネオン職人が消える時代の変遷が、時代と共に統治者が変わり、さらに政治的理由によって不自由を強制される香港という土地と重なる。その寂寥感が浮かび上がる風景が良い。ネオンが軸となる作品なのでライトが効果的に使われていて、ネオン、電灯、LED、炎、と様々な証明が映画を彩りそれぞれに意味を与える。ゲームセンターのコイン落としとか、夫婦を彩る洒落たシーンの組み立ては美しい。

 ところどころテレビドラマっぽいなと思う演出や画面の質感のところもあるしチープに思える部分もあるが、ネオンで彩られた風景はなんともいい。若き日の夫婦、老いてからも妻を大切に思う夫の姿、穏やかな微笑ましさとノスタルジーが素敵に見える。

 街からネオンが消えても、弟子が継承する技術があり、家族が継承する思いがある。そしてそれらが繋ぐ縁もある。と、ほっこりするいい映画だ。そして同時に、為政者によって失うばかりの市民たちの暮らしにおける、一つの抵抗の姿でもある。

 社会に疫病にと翻弄されて行き場をなくした青年が、消えゆくネオン職人の弟子として失われるはずのものを失わせない存在として自己を確立する姿も印象的だ。

 といった感じで、時代への愛、過去への愛、良き父と継承というところはかなりほっこりして可愛くていい映画だ。

 なのだけどどうしてもひっかかるのは主人公と娘の物語。親子仲は良くない。しかし娘は頭が良く誠実で、母のために年金を契約したり薬を飲ませたり世話を焼く。その娘に対し母はと言えば、お前には父の気持ちはわからんと愚痴り、金にならないネオンを続け、挙句生活はどうすると聞かれれば「お前に養ってもらう」と言う始末。娘が父を失った、という視座がない。駄々をこねている。終盤で、実は夫がネオン職人を廃業した理由は主人公が辞めさせたからだとわかる。つまりは彼女の奔走はその後悔によるものだったわけで、ではここから母娘の仲がどう回復するのかな、と思ったら娘が急に父の幻影に「ネオンは失われたが家族は守れ」と言われて家族仲を回復する。このシーンは正直萎えた。伏線として事前に娘が父の遺言を忘れているというのがあるのだが、それを思い出して即そうなる? 父との思い出のネオンが出てきて彼女の感情が雪解けしており、シナリオの整合性はついているけど、こっちの感情としては。うーん。

 駄々をこねる老人のために都合のいい娘と都合のいい疑似息子が出てきて解決する、というのはどこかポルノチックでなんか、飲み込めないなあ。おばあちゃんは変わらなくていいって、それは過去へのリスペクトでも時代の保護でもなんでもないんじゃないか。

 ちなみに安全管理ができていないことを責められるシーンがあるのだけど、主人公は燃えそうなカーディガンを着たままバーナーでガラスをまげていたり、家屋の廊下でものを燃やしたり、マジで安全管理していない。そんなとこまで昔かたぎである必要は全くないと思う。

 エンドロールは実在のネオン職人とその代表作が載っており、実際に失われたものたちがまざまざと見てきていい演出。あと娘役の役者がよかった。