ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

仮面の下の涙を拭い続けると心を壊すからやめよう 観劇感想 トローチ第6回公演『熱く、沼る』 ※ネタバレ

 声優としても大人気の東地宏樹らの劇団トローチ、第六回公演を観劇。赤坂レッドシアターにて。

 非常にいい劇だった。名優揃いで、生々しい質感のキャラと物語を見事に演じている。あまりにリアルで、観ていてしんどかったくらい。丁寧で静かで、とにかくいいものが観られた。大いにオススメ。

 以下、ネタバレ含む感想。キャラの名前を全忘れしてしまったので、読みにくいところがままあると思います。申し訳ない。登場人物を人間として観られていないのかもしれない。反省。

 

 スナックの雇われママをやっている主人公。50才、離婚もして、人生を淡々とやりすごしている。そんな彼女のもとに、先代ママの娘が訪ねてくる。泥酔していた主人公が目を覚ますと、先代ママの娘とたまたま店にいた二人の男性客と一緒に家族として暮らす約束をしてしまったらしく……という話。

 疑似家族もので、生きる孤独、さらにその孤独を深めて人をおいつめるトキシック・マスキュリニティ、他者への無理解、他人には笑顔にしか見えない泣き顔、と要素を並べると既視感があるような、最近よく見かける話。しかしそれをすごく高い精度で役者が演じていて、丁寧な演出もあって、とてもいい。スカッとするような展開ではないし、傷だらけの人たちが傷を抱えたまま少し前へという物語はしんどい。しかし人生はしんどいので、そのしんどさにわずかに光がさすラストは救われるところがある。なんかわからんが人生このまま終わるのマジしんどくねえ? という漠然と心を蝕まれている人にとっては、スカッとする物語よりむしろこういった観ていてつらい時間がありつつも現実的な(だけど少し理想的な)物語の方が心温まる部分は多いと、個人的には思う。

 とにかく登場人物はいい人も悪い人もどっちも芝居がうまいので、おっさんたちが無自覚に人の精神を削るシーンの生々しい嫌さは本当にもう観ていて辛い。

 どのキャストもいいのだが、東地宏樹さん演じる、言葉に刺される側と刺す側の間に立つ人物の、それは間違いなく加害者に含まれるのだが、でもその立場の人にはその立場の人が負う傷があるし、その立場の人がいるからわずかに救われる部分もあり、といった複雑な姿はまさに好演だった。多くの人はどちらかというとこの人物のように社会の加害を「これはダメだろう」と思いながらも解決のために一緒に傷を負うことはできなくて、SNSなんかだとそこから目をそらすために容易に叩く側に倒れるところをこの人物はふんばり続けて、救われることも救うこともないまま沼の中に沈んでいく。その彼が初めて怒りの言葉を漏らすところは本当に辛い。いいキャラだなあと思う。

 また、主演の小林さやかさんもとんでもなくいい。心に入った罅が笑顔の形になったような、苦しい笑顔。笑顔の仮面の下で涙を拭って人には隠して、それを続けるうちに心にひびが入った人間を見事に演じていて、彼女の笑うシーンがもう本当に全部しんどい。優しい人で、優しく振舞わないと保てなかった人で、正しい人や優しい人がすりつぶされていく社会だというのがまざまざ描かれて、もうすっごいしんどい。前のママが死んだあとのシーンなんてもうね、すごい芝居だったね。

 シナリオ的には、娘のキャラが頭おかしすぎて生々しい他のキャラと並ぶと浮いてるとか、男の愛人作って家族が壊れたらその加害者は親父であって捨てられた愛人の方ではないだろうとか、ちょっと思うところはあった。

 あと、ゲイが出てくるんだけど、その前までの芝居や演出やシナリオの端々から彼がゲイなのはうっすらわかるように作られているし、何よりおじさんたちの「おばさんなんだから」みたいな有害な男性性のきつさが際立つ芝居なわけで、その積み上げの先に配置されたゲイを告白するシーンで笑いが起きちゃうのはなんか客席側もこの主人公たち抑圧してる側じゃねえかとげんなりしたね。そのあとの謝っていやいや、みたいなシーンで笑えるのはわかるけどさ。

 あとラストの歌がめちゃくちゃいいです。カラオケ映像もそれっぽくて面白かったな。

 一年半に一回というスローペース公演の劇団ですが、次も必ず行きます。