元ワナビ日記

つまらな人間のブログ

読書感想『マーダーボット・ダイアリー』※ネタバレ

 マーダーボット・ダイアリー上・下(著:マーサ・ウェルズ 訳:中原尚哉)を読んだので感想。色々受賞しまくりのSF作品。面白かった。

 

 保険会社が所有する警備用殺人ボットの“弊機”は自身の命令系統を管理するシステムを改竄し、自由の身となった。警備ロボとして保険会社の仕事をこなしつつ、こっそりとダウンロードしたドラマを鑑賞して気ままに過ごしていた“弊機”だったが、警備する宇宙開発施設で起きた事件に巻き込まれ、平穏な生活に大きな変化が訪れる。というお話。

 

 自由になったのにロボットとしての仕事は普通に続けて、空き時間でドラマを大量視聴して満足しているという変わった設定がユニーク。“弊機”の一人称で進むのだが、人間的だがロボとしての合理性を持ち、ドラマ好きで人間好きだが人間になりたいわけではないという人格設計が面白い。

 色々受賞しまくった第一話のラストが素晴らしく、自由になったものの何をしたらいいのかわからないが、何をすべきか人に決められるのは違う、という切れ味のいいラストに痺れる。意思を持ったロボットが人間と関わり仲良くなったら、すぐ人間になりたがるという読者の偏見を使ったいい裏切りだった。

 “弊機”がドラマ好きな理由と、人間は好きだが人付き合いは苦手、というところが思春期っぽくてどことなくポップな伊藤計劃みたいな語り口だ。そんな“弊機”が人間になりたくない、という点で一貫しているのが良いところで、心を持つものは人間だ、なんて人間基準の規則に従う必要なんてないんだよなと思わせる。心を持ち、人と関わり、絆を作り、楽しさを知って、それでもなお明確に自分を自分で規定する姿勢は非常に今っぽい。

 楽しい作品だった。