ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

読書感想『メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行 Ⅰウィーン編(著:シオドア・ゴス)』※ネタバレあり

 シオドア・ゴスの人気シリーズ第二弾『メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行』を読んだので感想。結末までネタバレがあります。

 

 

 前作で共同生活のためのアテナ・クラブを結成した怪物娘(THE MONSTROUS GENTLEWOMAN)たち。謎の結社<錬金術師協会>を追う彼女たちのもとにルシンダ・ヴァン・ヘルシングから手紙が届く。手紙のないようからルシンダの父ヘルシング教授が錬金術師協会にかかわる人間であることを察知したアテナ・クラブの面々はウィーンを目指す。というお話。

 

 長い。これは一巻のときも思ったことなのだけれど、ひとつひとつのイベントが長く、また大きなアクションはあまり起こらないので単調に感じる。また、一個一個の出来事の描き方が非常にゆったりしているため冗長にも思える。そもそも本作の特徴として、「怪物娘たちが自分たちの身に起きたできごとを小説化している」という構造があるのでピンチには必然的に緊張感はなくて、それがまた戦闘シーンなんかを退屈にしている。

 前後編の前編をこの長さの長編にしてこのくらいのイベントしか起こらないと流石に退屈だし、一巻とさほど変わらないもめ事については新鮮さもない。ダイアナが制御不能で周りがイライラするとか、ベアトリーチェの毒の話とかあまりにも繰り返しやりすぎではないか。もっと短くしてもらえたらもっと面白かったのになと思う。

 

 一巻から変わらず怪物娘たちの自立する姿は恰好がいい。ウィーン旅行にかかる費用の捻出に苦心したところにホームズがさらっと金を出そうとするのを断るところとか、ベタな小説でよくある問題解決に対してその展開の裏側にあるステレオタイプを否定した作りにしており面白い。また、アイリーン・アドラーとの出会いを通して描かれるメアリの姿は非常によい。聡明で高い計画性を持つメアリが、ホームズとの日常を通して自分の頭に自信を持ち始め、同時にホームズに惹かれ、そこに現れるアドラーと初めて家を離れる冒険。ここの描かれ方は冗長ではなく丹念・丁寧でよかった。最後に「二十一です」とそれでも自分を大きく見せる姿がとてもいい。

 みんな大好きアイリーン・アドラーは大活躍で、ホームズが謎の失踪を遂げた中でメアリたちを支える。クリムトと友達だったりフロイト(精神医学者であるヘルシング教授と対立している)と友達だったり、このあたりは歴史モノとしてちょっと楽しい。

 ルシンダについては長編一冊使ってもどんな人かよくわからないまま、ただ吸血鬼だということだけがわかって終わり。パスティーシュの元ネタではヘルシングはもちろん吸血鬼の製作者ではない。マッドサイエンティストでもない。このあたりの説明は後編でされるのだろうか。

 

 しかしこの長さはやっぱり冗長だなあと思う。得られた面白さより長くて退屈な時間の方が大きかったと思う。世の中では大絶賛の嵐なので、自分の好みをツールに世間の好みを解析するのは難しい。