ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

懐かしさで真っすぐ読めない。 読書感想『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘』

 まさかまさかの戯言シリーズ最新作『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言使いの娘』を読んだので感想を。

 十代のころ清涼院流水にハマり、氏が帯を書いているというだけの理由でクビキリサイクルを読んだのが始まりなので、思いで深い。久々の新作は楽しみだったり、あんな堂々と終わった物語をもう一度やる必要があるのか疑問だったり、つまらなかったら落ち込むなと思ったり、発売日に買ったのに読むまでしばらく放置してしまった。

 

 読むと、戯言遣いの娘たる玖渚盾が主人公で、哀川潤が出てきて、とその出だしでもう懐かしくなってしまった。青色サヴァン戯言遣いが元気ならもうそれでいいや、みたいな。そういった懐かしさ、言ってしまえば思い出補正で、この作品については真っすぐ読んで評価することは不可能だ。

 哀川潤に拉致された盾が連れてこられたのは世界遺産・玖渚城。絶縁状態にある祖父母と伯父から、盾はある依頼をされる。それを拒否し城に泊まることになった翌日、城では殺人事件が発生した。被害者は首を切り落とされていて……

 という、一作目のクビキリサイクルを想起させる事件だが、密室ではなく天才の集まりでもない。事件は開かれた場所で発生。天才・玖渚友に切りはなされた玖渚家と、天才を模倣して作られた玖渚友のなりそこないと、青色サヴァンの遺産、そして舞台は世界遺産。と、とっくに終わった作品が記念に復活したこと対応するように、本作は遺産の物語であり、遺産を放棄する物語だ。

 かつてそこにあり、もうないものを再度手に入れようとする玖渚家の人々と、それに価値を見出さない盾のような若者。昔はよかったとか、昔のライトノベルはこうでよかったとか、そんな懐古趣味を否定する。新しいものを作り続けている西尾維新らしい作品だったと思う。

 物語シリーズのどのあたりからだろうか。とにかく執筆ペースが速く、大河ノベルとかもやって、そんなあたりからか西尾作品の作風(芸風)として、短編みたいな内容で長編一本作りきるというところがあって、本作もたぶん普通のミステリー作家が書いたらもっと短いんじゃないかとは思う。謎解きはとくに劇的な爽快感はないし、オチも、玖渚家の面々と違って読者側は予想できたオチだったのではないか。全体的にあっさりしているというか、とにもかくにも、今の西尾維新作品だった。そういった意味ではすごく面白かったとは思わない。

 なのだけれど、冒頭の一文の言葉遊びから戯言シリーズだなあという印象が強く、なんというか自覚しても決してはがせない思い出補正で一冊読み切ってしまった。

 それとこういったファンの懐古趣味が炸裂しそうな作品で、過去に拘りもう一度同じものを求める人々を愚かと断じて、そして玖渚盾が「どこにも行かない」と言ってしめるそのひねくれた感じは、非常に西尾維新していてとってもよかった。だって西尾維新は未だに書き続け売れ続けている、最新の作家であるのだから。

 真っすぐ読めていない。だけど、懐かしい作品の、記念の作品なんだからそんな楽しみ方でいいじゃん、という感じもする。