ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

世界に抵抗する意志 ラジオドラマ感想 青春アドベンチャー『王妃の帰還』※ネタバレ

 青春アドベンチャーで再放送された『王妃の帰還』の感想。ネタバレありです。

【あらすじ】
舞台はお嬢様が集う私立女子校中等部2年B組。ある日、範子が密かに「王妃」と呼んでいる滝沢美姫が「公開裁判」の末、クラスの最上層グループから陥落。追放された美姫を迎え入れることになり、範子たちグループ内は大混乱! 平和な日常を取り戻すため、プリンセス帰還作戦を決行するが……。
内気な「下層民」である主人公が、大切なものを守るため勇気を奮い、日常に波乱を巻きおこすガールズエンターテインメント物語。

【出演者】

小芝風花 木下晴香 櫻井淳子 高橋光臣
八木優希 秋月成美 八城まゆ ついひじ杏奈
花影香音 野本ほたる 高宗歩未 山川二千翔

【原作】

柚木麻子


【脚色】

中澤香織


【音楽】

内山修作

引用元:王妃の帰還 | NHK オーディオドラマ

 

 キャストが豪華。全編中心に立つ小芝風花の声の芝居が大変いい。コミカルで軽妙、だけど芯が強く、それでいて思春期の諸々に揺れ動く魅力が声から伝わってくる好演。

 壮大な音楽とコミカルな演出は、ひとつの教室で起こる女子グループのもめ事の小ささを過剰に飾り立てるコメディとして機能しているようにみえる。しかし、だんだんとこの教室という場所が彼女たちにとって世界そのものであることが見えてくる。スクールカーストの変化は、彼女たちにとっての生活であり人生であり、世界だ。コミカルに機能する壮大な音楽は、そのまま世界と対峙する範子を彩るにふさわしいスケールであることがわかってくる。というか、大人になると学生時代に見えていた世界の範囲が狭かったなあと思う一方で、学生時代のいじめや嫉妬や権力勾配は社会に出ても似たようなものであって、スクールカーストは世界と地続きだ。

 中盤、グループ間のもめ事を受け入れてなあなあで穏やかに生きようとする友人に範子が違和感を覚え、強くなる決意をするところから大きく物語は動く。世界が持つ構造を、それに踏みつぶされる側が受け入れて生きることは、その構造を温存し強化してしまう。差別や社会問題について「変えられないものは受け入れて生きていこう」が正しい看板かのように提示される社会で対決する道を選ぶ主人公は気高い。ここでコミカルに機能していた実況をやめることで、彼女が傍観者を降りたことがわかる演出はけっこう痺れる。

 最後には範子を通して成長した王妃がスクールカーストではなく、その権力構造から一歩抜け出した場所に帰還する様は感動がある。構造の分断を否定できれば、違うカテゴリー同士でも繋がり合える場所があるというのは希望だ。一瞬の未来でも、その瞬間が存在するだけで、意外となんとか生きて行けたりするもんだから。