ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

映画感想『十二人の怒れる男』※ネタバレ

 十二人の怒れる男を観たので感想。アマプラで配信終了という情報をTwitterで見つけて視聴。十数年ぶりに観たがやはり何度観てもいいし、世の中が最悪なノリにあふれる昨今の自分の感情を通して観ると今の方がより良い映画に思えた。

 

 あらすじ:スラム街の少年が実父を刺殺した事件の陪審員を担当する12人の陪審員。スムーズに死刑で決まると思われた陪審だったが、1人だけ無罪を主張する。全会一致がルールの中、1人無罪を主張する男は11人を説得できるのか? というお話。

 

 日本では三谷幸喜が本作をオマージュした戯曲および映画『十二人の優しい日本人』が大ヒット。さらに優しい日本人をオマージュした冨坂友『ナイゲン』という演劇が小劇場と学生演劇シーンで人気。なので本作に一切触れなくても本作のネタバレをすでにされている状態で観る人も多い映画だ。それだけシンプルで強固な構造を持った映画と言える(もちろん本作はドラマのリメイク映画なのだがそれは置いておいて)。

 

 シンプルな設定、シンプルなストーリーが心地よく展開される。熱い部屋という設定や会議室の使い方は演劇っぽい。特に3号の偏見が明らかになり他の陪審員が顔を背けるシーンはかなり舞台演出っぽい。

 人間は簡単に偏見や個人的事情に流されるし、集団は流されやすい。そしておおむね人間は普通に流れて生きればシステムに乗っかって生きて個人を忘れてしまう。その先には一人の人間を容易く切り捨ててしまう地獄が待っている。それに立ち向かうには、法という秩序を保ちその使われた方そのものにまで視線を向けて全うする理性しかない。そして理性をもって行動することがどれほど毅然として困難か、というド直球すぎる映画だ。その中でヘイトを一身にまとい、映画全編を通してついに剥がされてしまった自らの虚像の内側のマチズモをむき出しにした3番の慟哭があまりに痛切だった。

 3番が反対していた理由を誰かが口にすることなく、本人の芝居に背負わせるシナリオの切れ味が最高。さらにこれだけの大事があったあとに、ダラダラとその後を描くことなくあっさりと解散するあっけなさもまた良い。

 いつ観ても素晴らしい。