つまらな人間日記

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映画感想『パリ・オペラ座のすべて』

 フレデリック・ワイズマンドキュメンタリー映画パリ・オペラ座のすべて』を観た。世界最古のバレエ団「パリ・オペラ座」の練習風景やスタッフの仕事を追いかけている。約二時間四十分。

 

 バレエは全く知らないが、高い身体能力を持った人たちの鍛え上げられた肉体と修練の姿は門外漢にも十分凄いものとして映る。また、演出や振り付けのチームの会話も面白い。演出家同士の言い合いも、全く内容はわからないが不思議と観れる。

 日本の演出家ドキュメンタリーだと、演出家が抽象的なことを投げて役者が右往左往する様を観せるある種の権威見せが一つの見せ場になってきちーと思うことが多いのだけれど、ここでは腕をもっと下げる、足をこうする、といった的確な指示に対して役者がはっきり意見を述べている。振付師が曖昧なたとえ話で演出家が指示すると「よくわからない」と答えられる環境なのが、プロ対プロだなあという感じ。

 

 こういったドキュメンタリー映画も三幕構成になっているのは面白い。第一幕では主に練習風景が描かれ、第二幕に入ると食堂や企画会議といった裏側の更に奥へ入る。大口寄付者へのもてなしとか、世知辛い話が出てくる。美しいダンスを見せ、そこと地続きに高額寄付者向け食事会の風景になることで、この場所の美しいダンスとそれを支える経済が見えてくる。ミッドポイントではバレエの上演が続き、そこからは裏方スタッフに芸術監督の苦悩、教育機関としての仕事にとより細かいところへ進んでいく。

 稽古場→ステージと反復しながら、合間に映るその背景の積み上げによって、ダンサーを支える労働や経済が見えてくることで、ラストのダンスにはその土台となる情報が重なって見え方が変わる。構成の妙だと思う。

 ナレーションもなくインタビュアーもいない、主役格もおらず淡々と進むのだけれど、カットの連続性やこういった構成のおかげかスムーズに入り込んで観られる。この制御力、編集力が見事。

 都心にあるオペラ座の屋上で養蜂をしている、みたいな楽しい豆知識も見える。

 バレエのシーンは美しくて動きが凄い。人間の身体はこんなにも制御・統制可能であり、その精密な身体によってのみ表現可能なジャンルがあるのかと圧倒される。白人たちによるリッチな舞台の後に、黒人の清掃員と静かな無人の地下が映るカットは示唆的。

 面白かった。長いし、方式のせいで集中力や体力が必要だけど、その分だけ観る価値がある。