ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

マニアックな企画 映画感想『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』※ネタバレ

 映画『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』を観たので感想。

 原作はストーカーのドラキュラだが、その全27章のうち第7章のみを映画化するというマニアックな企画。原作7章は吸血鬼の存在を知る由もない船長による航海日誌から、ドラキュラに侵食され全滅に至る様が見えてくるという、遺された手記を読む形式の面白い内容になっている。最近流行の何が起きたか明記されないが読むといていくと怖い真実が見える、みたいな作品に近いかも。

 漫画ヘルシングでグールの死体を山積みにした空母がアーカードを乗せてロンドンに到達するシーンはこの7章のオマージュ。映画だとロストワールドティラノサウルスが占拠した船がつっこんで来るのもこの章のネタかと思う。

 

 まあまあ面白かった。つまらないところはありつつ、退屈はしない、配信で観るのにちょうどいい感じだった。

 二時間あるのだがどこかギクシャクした印象のある映画で、特にアナというドラキュラの持ち込み餌人間だった女性の取り扱いが謎というか、上手くその特性が活かされていないように思った。彼女が全体の不和を作ったり、ラストの大きな展開のきっかけになったり、最後の生存者のある決断になったりするわけだけどなんかあんまり。本当はもっと長かったのを無理くり2時間にしたのだろうか?

 全体的に風景や街並みを描くCGやセットが良い。ドラキュラ入り木箱を運びこむ馬車が港へ向かう街並みは美しく、船出までの港は雑然としていて時代感もある。舞台となる船や海の出来もよい。勝手に低予算映画の印象があったが、しっかりお金のかかったリッチな画面だった。

 序盤の展開がとてもよくて、このいい感じの港や船で不穏な気配がどんどんと積み上がっていく。最初から船にドラキュラがいて、しかもBADエンド確定であることを観客がわかった上でシナリオを進めるのは難易度が高そうだが、序盤は見事にそれをわかった上でも楽しめる不穏を積み上げている。ネズミがいなくなることがありえない異常事態という船ならではのネタは大変好み。

 また、主人公のクレメンス医師がいい。ケンブリッジ大学を卒業し医師になった最初のアフリカ系というインテリだが、差別によって職を得ることができない。そんな差別に道を閉ざされた彼は、世界を知ることを願っている。彼の閉塞感はそのまま船の閉塞感であり、どうしようもない差別により追いやられる彼の人生はそのまま吸血鬼という理不尽による殺戮と重なる。ではその約束されたBADエンドを前に主人公が掴むものは何かといえば、理不尽に挑む姿勢である。犠牲の果てに掴んだ高潔さは気高い。

 本当はもっとうまく行っていたシナリオだったんじゃなかろうかと思わせるところがおしい作品だった。