ラノベ書きしもの日記

ワナビの日記

中年の危機と、友情と、停滞と、暴力 配信映画感想「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

 タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を配信で観た。吹替え版。

 面白かった。すっごく長いんだけど飽きないし、だれない。仕事に行き詰り人生の袋小路に入った中年男が主人公。彼の人生が淡々と続く。淡々としているのに面白い。不思議な実在感と、役を演じ人生に迷う姿が十分にドラマティック。

 

 長回しで失敗し続ける映画撮影のシーンが続いてからの、カットしながら自己批判を続けるシーンになるところが好き。

 合間合間にシャロン・テートが可愛く生き生きして、テート事件を知っていればこの合間のシーンが悲劇へのカウントダウンとして機能する。それが映画に緊張感を確保している。確実に来る破滅がすでに約束された映画(例えば第二次世界大戦ものなら史実はみんな知っており、映画の内容外でその知識を前提にみるのと同じだ)は、その外側の観客の知識がそのまま語らずとも現れる予感として映画を包む。

 マンソンファミリーに乗っ取られた映画牧場が途端に不穏な空気に包まれるのも、大勢のヒッピーが一斉に目を開いてクリスを観ているって異様な様だけではなく、その前提条件があるからだろう。そこを真っすぐ突っ込んでいくクリフのたたずまいがかっこいい。ここのクリフを西部劇っぽく描いていたり、リックとクリフを別行動にしても同じ動きをしている対比が多くて、その連続と穏やかだけど上手く行かない日常の停滞感と確かな友情がじわじわと染み入ってくる。

 その緊張感が爆発するラストはゆったりした時間が一気に爆発して否が応でもあがる。マンソンファミリーなら何やってもいいだろ的な露悪的な暴力。そっからのついに希望の門が開かれる瞬間は、幸せの予感が告げられたおとぎ話のようなラストでとっても好きだ。こういう物語の中でだけ存在する救済というものは、悲惨な事件を前にしたときに傍観者がふいに思い浮かべてしまうものだと思う。ポランスキーの今の奥さんは大変不快だったそうだが。それはまあそうだよな。

 中年の危機真っただ中の主人公だがサポートしてくれる親友はいる。主人公と違い家は郊外で、仕事もない。腕は立つが人間関係は上手く行っていない。しかし主人公と違い、そこに悲観して沈み込んでいない。主人公は主人公で嫌われ者の親友のために気遣ったりもする。主人公は生活がアルコールで荒れて仕事に困って人生に失望ぎみだが、けっこう気遣いができるというところがいい塩梅。隣人がポランスキーでいつか仕事が来るかも、といいつつ直接営業かけたりはしない、落ち込んでいるが子供に無礼も働かない。ちょうどよく上手く行っていないし、それはそうなってもしまうかもなと思わせるが、最後に幸せに近づく予感を手に入れるにふさわしいとは思える。そんな塩梅がほどよい。

 マラベラ(トルディ)役の子役に見覚えがあったのだが、調べたらフェイブルマンズに出てた。すっげえいい俳優。