つまらな人間日記

つまらな人間のブログ ※Amazon アフィリエイトリンクを使用しています。

全てを置き去りにする速度の向こうで 映画感想『F1/エフワン』※ネタバレ

 F1/エフワンを観たので感想を。

 IMAXで鑑賞。

 ジョセフ・コシンスキー監督とアーレン・クルーガー脚本のトップガン マーヴェリックのチームがブラッド・ピットを主演に置いて送るF1映画。

あらすじ:F1チーム『APX GP』成績低迷によりオーナー解任の危機に立ったルーベン(ハビエル・バルデム)が、かつてのF1チームのチームメイトだったソニー(ブラッド・ピット)をセカンドドライバーにすることで起死回生を図る。かつて天才と呼ばれたソニーだったが90年代の事故を機にF1からは離れ、ギャンブル依存症に複数回の離婚、現在はレースからレースを渡り歩いて車中生活を続ける根無し草。APXの若きドライバーであるジョシュ(ダムソン・イドリス)は自分の地位を脅かすソニーを警戒し、技術チームも年配ながらF1経験のないソニーを信用しない。八方ふさがりの中、ソニーは残り9戦のレースに挑む。

 最高に楽しかった。

 以下、結末までネタバレあり。

 IMAXの作り上げる轟音と高速の映像が、これマーヴェリックの焼き直しじゃねえのかって感じのストーリーを補強し、レースシーンの持つエネルギーによって物語は緊迫感と感動を倍増させる。シンプルでベタな物語が、強烈な映像の緊張感によって観たことのない得難い経験として強烈に現れる快感がもう最高だった。

 危険で無謀な若き天才だったソニーが危険で無謀で老獪な天才に変貌し、ルールのグレーゾーンを駆け抜けてジョシュの順位を上げていく。この前半の、ダークヒーローによってかき回されるF1レースという状況がまず面白い。30年以上F1を離れながらも心を張り付けていた男の老獪な手練手管、しかもそれが映像的にうまく整理され、F1全然知らない私のような知識ゼロ人間にもわかりやすい。

 ソニーに反発する若いドライバー・ジョシュとの関係性の描き方も丁寧で、かなり良い。卑怯なソニーによって自分の順位が上がるジョシュ、ソニーが評価されることで自分がドライバーでいられなくなるのではないかという恐怖や、自分の才能へのプライド、そんな全てが噛み合わない若者との衝突が巨大な事故に帰結する悲劇の瞬間のショックは、あの映像のパワーもあってかなり強烈。ジョシュの反省が明確に言葉で伝えられていないけれどお互いわかっているって感じもいいよね。

 自分が負けることでジョシュを前へ押し出す自己犠牲的なスタンスのソニーと、自分が勝つことだけを考えるジョシュ。この二人はどちらもチームと自分が別のものとして独立している。その二人が互いを支えることで一つのチームとなるラストバトルは、そりゃ当然主人公が勝つだろってわかっていても、ハラハラしながら手に汗握るものになっている。

 本作の一番好きなところはラストの展開だ。

 ソニーはF1レーサー時代の事故が原因で命の危険があり、医師から引退を勧告されていた。それでも手に入らなかった世界一の称号、負け犬として過ごした日々、そして失った『空を飛んでいる』感覚を求めて長くレースを渡り歩いていた。そんな彼がF1でトップを取る瞬間、これまで轟音で鳴り響いていた全ての音が消え、何もかも置き去りにして速度とソニーが一体化する。彼にまとわりついていたモノが全て取り払われる(こんなシーン、フォードvsフェラーリでもあったよね)。このシーンがマジで最高。そしてすべてを置き去りにした速度の向こうでソニーがたどり着いたその先の人生が、『またレースに行く』だったのが超最高な結論だ。

 敗北や屈辱を雪ぐために命を捨てて戦った果てに、その初期衝動としての『走ること』が残る。そのために最高のチームも支えてくれた女性も求めず、約束だけを置いて去っていく。全てを置き去りにして、純粋にむき出しになった自分を抱えて生きていく清々しさ。マーヴェリック的なシナリオだが、トム・クルーズみたいなタイプの華ではなく、ブラッド・ピットの貫禄あるかっこよさに似合う、本当にクールな結末で最高だった。もしかしてこのままどこかでレース中にソニーが死んで、満足して死にましたで終わるんじゃないかってちょっと思ったけれど、なんとも最高に幸せな結末で良かった。

 いい映画だった。

 

日本のカーレース映画。ドリフトに注力した映像がかっこいい。レースゲームのトッププレイヤーがレーサーになるという、グランツーリスモと同じ元ネタで日本流に作られた映画。意外と良い。

 

免許が取れないけどGT-Rに乗りたい高校一年生がe-sportsのカーレースに挑戦する漫画。F1よろしくタイヤの摩耗までしっかり取り込まれたゲームの設定が細かい。全2巻で読みやすい。